ローカルジャーナリストとして活躍する田中輝美さんのに参加しました。会場は出来たばかりの藤岡のオーガニックカフェ「hocoro」さんでした。参加者は50名以上で会場は超満員。「地域の魅力再発見」の演題に興味深く聞き入りました。
ローカルジャーナリストとは
田中さんが自称する「ローカルジャーナリスト」は日本でただ一人田中さんしかいません。ローカルジャーナリストとは田中さんの造語で、情報発信の中心地の東京に向けて地元の情報を発信する役割をする人のことです。今の東京一極集中の状況は、東京以外での生活に劣等感を感じさせます。自身も東京での就職に失敗して地元に帰ってきた時に大きな挫折感を味わったといいます。
地方都市の若者が都会に憧れを抱くのは、東京から各地に「東京>地方」という価値観だけが発信されているからです。田中さんは地元に帰ってきた時、東京では地元の情報に触れる機会が極めて少なかったことに気づきました。東京では地方はほぼないものとして扱われていたと感じられたそうです。
それはなぜなのか。地方から東京に向けて情報を発信する人がいなかったからです。田中さんはそれなら自分がその役割を果たそうと決めて、ローカルジャーナリストとしての活動を始めたそうです。ローカルジャーナリストの大きな役割は地方の魅力を東京という大消費地に向けて発信することです。ニュースを届けることで人やモノ、カネの流れが地方へと向かい地元が元気になって、その魅力が再び東京へと伝わるという良い循環が生まれます。資源の東京一極集中の流れに変化を作り出すことで、東京以外の選択肢を全国に発信することになります。いままでないものとして扱われていた地方にスポットライトをあてることができる。それがローカルジャーナリストです。
関係人口を増やして地域の魅力を高める
いま全国の自治体が人口減少の課題を抱え、定住促進の政策を競い合っています。全国的な人口減少の流れの中ではその競争はゼロサムゲームで不毛です。田中さんは定住人口よりも関係人口の増加に重点をおいた施策こそが地域を元気にするといいます。関係人口とは「観光以上、定住未満」といわれ、地域のイベントや行事などの作業を一緒に手伝う仲間として地域に関わる人のことです。必ずしもその地域の住民とならなくても地域の力となって一緒に盛り上げる役割を持っています。これまで言われていた「交流人口」という考え方は、おもてなしをする地元側とされるお客さん側とではっきりと分かれていました。汗をかくのは地元住民だけなので、やがて疲弊し交流疲れに陥ってしまします。一方、関係人口は一緒に地域を作る仲間となるので、地元の負担が分散します。更に関係人口となるには定住する必要がないので、同じ人が複数の地域に関係人口として関わることできます。自治体間の競争が起こりません。
なかには、結局は定住者を増やさなければ地域の存続ができない、という意見もあります。しかし田中さんの経験上、関係人口の増加は結果的に定住者を増やすことに繋がっているようです。地域との関わり方はひとそれぞれで関わり方に優劣はなく、定住が最終目的でもありません。しかし関係する人が増えれば地域の魅力が増し、結果人口が増えていく要因となっているようです。
「課題」は「あなたが必要」というメッセージ
地域の魅力は美しい風景や美味しい料理だけではありません。地域の課題を発信することも魅力をPRすることにもなります。
講演では、島根県のU・Iターン者の考える島根の魅力は「課題」があることと紹介されました。課題があるから自分の役割を発揮できる、関わる余地があると捉えているようです。地域の魅力が人口なら東京に勝てる地域はありません。でも一人ひとりの役割の大きさが地域の魅力であるなら、人口が多いことはむしろマイナス要素です。
人口の単純比較では、「68万人(島根県)<1300万人(東京都)」で東京には及びませんが、人口あたりの1人を考えるなら「1/68万人 > 1/1300万人」でひとりひとりは大きくなります。
人口が少なく過疎といわれている地域ほど一人ひとりの役割が大きくなります。そのなかで課題を発信し「あなたが必要」というメッセージが伝えることができれば、それは地域の魅力といえます。田中さんはローカルジャーナリストとして地域の魅力を伝える中で、地域を作るのは一人ひとりの「あなた」と誰もが実感できる地域こそ魅力的な地域であると結びました。
人口減少が必ずしもマイナスではない、課題のあることは魅力に繋がる、新しい視点を得ることのできた講演会でした。